消去法


神保町花月、お芝居公演「消去法」を見てまいりました。脚本がプラン9の久間さんということと出演者人が演技に定評のあるグランジ・犬の心ということで珍しく「見たい」と思ったのです。

あらすじは丁寧に書いてくださる方がいらっしゃると思うので、不親切を承知でザックリと。

つまらないケンカで家を飛び出した彼女の愛(出雲阿国)が事故で昏睡状態に。どうにか意識を取り戻してほしいと毎日神社に通う吉田(グランジ五明)の元に「お困りならば助けますよ」と現れる謎の男(プラン9浅越ゴエ)、その男によれば「あなたの『き』と引換にどんな願いも叶えます」とのこと。
愛と同じ病院にいる記憶喪失の男(グランジ佐藤)。実は目の見えなくなった妹のために金がほしくて強盗をした犯人。そしてその相棒だったアイカワ(犬の心押見)は、金を持って逃げられたと思い約束の場所(神社)で待ち続ける。そこに「お困りなら助けますよ」と現れるあの男。アイカワも同じように『き』と引換に望みを叶えてもらう・
愛が意識を取り戻すも「良かったな」と淡々と答えるだけで、様子のおかしい吉田。嫌われたのかと、仲直りしたい、と思った愛は吉田の行っていたのと同じ神社で仲直りできるように祈る。すると愛の元にもあの謎の男が。その場に言わせていた吉田の友人(犬の心池谷)は愛に恋心を抱いていたこともあり、「病み上がりなのに何かあったら」との理由で自分の『き』と引換に2人が仲直りできるようにしてもらう。
「お兄ちゃんに会えますように」と願う女性、彼女もやはり同じように『き』と引換に望みを叶えてもらい、兄と会う。その兄というのが記憶喪失の男。彼もまた「妹の目が治るように」という願いを『き』と引換に叶えてもらおうとしていた。

最後に謎の男と『き』を引換に交渉をしたのは、愛の主治医。実は愛の交通事故は彼によるもので、飲酒運転・ひき逃げがバレたら…と愛が起きないように操作していた。そして、それらの罪を記憶喪失の男になすりつけようとしていた。彼の願いは「全てリセットしてくれ!」ということ。

物語の冒頭と同じシーンに戻る、しかし愛と吉田のケンカのきっかけとなった出来事は起きず。強盗犯も強盗ではなくて地道に稼いで手術代を稼ごうと。そして医者は浮浪者となって彷徨う。


吉田は喜びの「き」と引換に彼女の意識を。愛は、相谷から愛への好きという気持ちの「き」を引換に仲直りを。
大さん演じる強盗犯は記憶の「き」と妹の視力を、アイカワは強盗で得たお金でしたかった希望の「き」と大さんと再会を
視力を取り戻した妹は(視力が回復するという)奇跡の「き」と兄との再会(ん?ここは兄の記憶だったのか?)を、医者は生きる力「き」と、これまでの出来事のリセットを。


公演時間上やっぱり伏線にそんなに時間を取れないからか、「あ、ここでそんだけ言っちゃうんだ」という場面もチラホラあったのですが(いったいどういう「き」を消去しているのかという説明の部分など)ガッツリお芝居ってわけでもないですし、自分は普段演技ってものよりは活字(小説)で物語を楽しむタイプなのでそこらへんの感覚の違いかな、と。あんまりじわりじわりとやっていたらダレちゃうということでしょうかね。
個人的に好きだったのは、記憶を取り戻して刑務所に入った後に大さんが「あいつ嘘つきだな」と言って神社で妹の目を治すと言ってきた人がいた話をした後に「ふふふ」って笑うだけの妹のシーンです。兄は「き」を消去されたことで記憶を無くしてたってことも、妹が兄と会うために「き」を消去されたってことも知らなくて、でもそれを説明したりしない妹が素敵だなぁと。その前の部分でも「せっかく見えるようになったのに、お兄ちゃんが見えないの!」というところでかなりグッときていただけあって。妹にとっては世界が見えることよりも、お兄ちゃんの存在が確認できているってことのほうが大きいってことですしね、うん。素敵。 「リセットしてくれ!」以降の『リセット後の展開』が好きでした。リセットしたところで同じことが繰り返されるのでは…と思わせておいて、状況はループしているのだけれど小さな何かが違っていて、結果ハッピーエンド!という感じ。それまでの展開が無限ループをにおわせるようなグルグルグルグル状態だったこともあり尚更に。個人的にはバッドエンドの物語のほうが印象に残りますし後味悪くてモヤモヤとずっと残る感じもまた好きだったりするのですが、こうやって救われる方向に持っていくのは憎いなぁと。「僕はそんな出来た人間じゃないですから」と言いつつ、ちゃんと相谷から愛への恋心を消していたりね、ゴエさんの役は「き」を消去することで人々の人生を狂わせているようで悪役かと思いきや、結果的には良い奴で終わるあたりも憎い。


私が結局分からなかったのは、押見さんが何のために強盗をしたか。という部分なのですが。大さんの為だったということでいいのかしら?希望?でもだったら何故あれだけ躍起になって(「き」を失ってまで)大さんを探していたのか?妹がどうなったか心配だったから?そこらへんが理解しきれなかったです、モヤモヤ。

エンディングではゴエさんが先輩ということもありちゃんとしなきゃ!と思う一方でやっぱりどこかボケたくなるという話を。唯一ギブソンさんと2人だけのシーン(「リセットしてくれ」と頼む部分)があるのですが、明転でギブソンさんが土下座しているのに向かい合って土下座するっていうボケがしたくて堪らないそう。明日は千秋楽だからやっちゃおうかな、なんて仰ってましたが「久間さんにこうやって(胸倉つかまれて)怒られてるのが想像できる(ギブソン)」とのこと(笑)
願いを叶える条件として「お金は結構です」と言われたらすぐに体を捧げようとする面々に「どうしてすぐ体を!」「優秀な学区と聞いておりますよ!?」「子供が出来たらここに越したいと聞いておりますよ!?」というくだりがすきでした、優秀な学区とかあるんですか?都会には。

他の神保町の公演を見たことがないに等しいので、脚本がどうこうとは言うべきじゃないのかもしれませんが久間さんが賞賛される所以が分かったような。